事業の趣旨・目的

 看護学生にとって看護の対象者とコミュニケーションをとり、アセスメント力を高めることは重要な技術であると同時に、看護基礎教育の中で身につけたい技術である。しかし、情報通信技術(ICT)の発達に伴い、社会の中で人に向き合う直接的なコミュニケーションの機会が減少し、看護学生においても臨地実習でコミュニケーションに躓く場面が増加している。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、病院等実習施設での学生の受け入れ制限や実習時間の短縮・中止等が発生し、臨地実習での学びの機会はもとより、人と向き合い対話する機会がさらに減少し、看護学生のコミュニケーション力低下が懸念されている。

 そこで、看護学生のコミュニケーションの機会を増やし、アセスメント力を向上するため、先端技術を活用し、看護学生向け疑似対面型グループワークの実践モデルを開発、その効果を検証する。具体的には、疑似対面型グループワークにおいてVR会議システムを活用し、周りにグループワークメンバーがいる「バーチャル空間=疑似対面」を作り出すことで、対面授業により近いグループワーク環境を実現し、看護学生のコミュニケーション力を向上させていく。さらに、開発モデルは新たな人間関係を創り出し、コミュニケーションを広げるものであり、コロナ収束後も次世代のコミュニケーションツールとして看護学生の学びを支えることができる。

 新型コロナの影響もあり、看護師不足は深刻化の一途をたどっている。看護師を養成する専修学校が社会ニーズに即したコミュニケーション力の高い実践的な人材を継続して輩出することにより、看護師不足解消に寄与する。

当該実証研究が必要な背景

1)看護分野の現状と課題

◆看護師不足の現状

 厚生労働省によると看護職員(看護師・保健師・助産師・准看護師)の就業者数は2016年末で約166万人となっている。税・社会保障一体改革における推計において、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、看護職員は196万~206万人必要とされている。現在、就業者数は年間平均で3万人程度増加しているが、このペースで増加しても2025年には3万~13万人が不足すると考えられている。今後、必要となる看護職員を着実に確保するために、「養成促進」「復職支援」「離職防止・定着促進」等に取り組んでいるが、コロナウイルス感染症拡大により看護師のさらなる確保が急務となっている。

◆新型コロナウイルスによる看護師不足の危機的状況

 染症対応に関する実態調査」を実施。新型コロナウイルス感染症の発生・感染拡大に伴い、「看護職員の労働環境の悪化、防護服等物資不足、看護職員への差別・偏見の発生等、近年、看護界が経験したことのない事態が発生している」としている。全国の病院(8,257病院)の病院看護管理者(看護部長)を対象とし、Web調査した結果によると、34.2%の病院が「看護職員の不足感がある」と回答し、感染症指定医療機関等では45.5%と不足感がさらに強くなっている。新型コロナウイルス感染症対応を理由とした離職は病院全体で15.4%、感染症指定医療機関等で21.3%「離職があった」と回答している。

 新型コロナウイルス感染症拡大により看護師不足は深刻化の一途をたどっている。今まさに、社会ニーズに即した実践力のある人材をひとりでも多く継続して輩出することは看護師を養成する専修学校の使命と言える。

◆看護学生に求められるコミュニケーションスキル

 看護師に求められる能力と看護師等養成所卒業時の到達目標が厚生労働省「看護基礎教育検討会(2018年10月)」に示されている。

看護師の実践能力 構成要素 卒業時の到達目標
ヒューマンケアの基本的な能力 実施する看護についての説明責任 ①実施する看護の根拠・目的・方法について対象者の理解度を確認しながら説明する
援助的関係の形成 ①対象者と自分の境界を尊重しながら関係を構築する
②対人技法を用いて、信頼関係の形成に必要なコミュニケーションをとる
③必要な情報を対象者の状況に合わせた方法で提供する

 また、新人看護師が1年以内に経験し、修得を目指す項目が厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン(2011年2月)」に挙げられている。

  新人看護師が1年以内に経験し習得を目指す項目①
患者の理解と患者・家族との良好な人間関係の確立 ①患者のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する
②患者を一個人として尊重し、受容的・共感的態度で接する
③患者・家族が納得できる説明を行い、同意を得る
④家族の意向を把握し、家族にしか担えない役割を判断し支援する
⑤守秘義務を厳守し、プライバシーに配慮する
⑥看護は患者中心のサービスであることを認識し、患者・家族に接する
  新人看護師が1年以内に経験し習得を目指す項目②
組織における役割・心構えの理解と適切な行動 ①病院及び看護部の理念を理解し行動する
②病院及び看護部の組織と機能について理解する
③チーム医療の構成員としての役割を理解し協働する
④同僚や他の医療従事者と安定した適切なコミュニケーションをとる

◆看護学生のコミュニケーション力の課題

 看護学生にとって実習で看護の対象者とコミュニケーションをとることで情報収集し、分析する力(=アセスメント力)を高めることは重要な技術であると同時に、看護基礎教育の中で身につけたい技術である。しかし、情報通信技術(ICT)の発達に伴い、社会の中で人に向き合う直接的なコミュニケーションの機会が減少し、看護学生においても臨地実習でコミュニケーションに躓く場面が増加している。また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、実習施設での学生の受け入れ制限や実習時間の短縮・中止等が発生し、臨地実習での学びの機会はもとより、人と向き合い対話する機会がさらに減少し、看護学生のコミュニケーション力低下が懸念されている。

◆看護分野の遠隔教育導入モデル開発の必要性

 コロナ禍においても看護学生のコミュニケーションの機会を増やし、アセスメント力を向上するため、先端技術を活用し、看護学生向け疑似対面型グループワークの実践モデルを開発、その効果を検証する。具体的には、疑似対面型グループワークにおいてVR会議システムを活用し、周りにグループワークメンバーがいる「バーチャル空間=疑似対面」を作り出すことで、対面授業により近いグループワーク環境を実現し、看護学生のコミュニケーション力を向上していく。

2)「疑似対面型グループワーク」開発の有効性

◆看護学生が習得すべきコミュニケーションスキル

 厚生労働省「看護基礎教育検討会(2018年10月)」及び「新人看護職員研修ガイドライン(2011年2月)」から看護学生が在学中に習得すべきコミュニケーションスキルは以下となる。

対 象 看護学生が習得すべきコミュニケーションスキル
患者・家族 患者・家族の理解度を確認しながら説明するスキル
患者・家族との信頼関係(ラポール)の形成スキル
患者・家族への傾聴スキル
職場 上司・同僚との関係性構築スキル、報連相スキル

◆「疑似対面型グループワーク」開発の有効性

 上記のコミュケーションスキルを本事業で開発する疑似対面型グループワークで身につけ、スキルアップしていく実践モデルを検証研究する。疑似対面型グループワークでは対面グループワークのメリットを生かしつつ、Zoom等現行の遠隔グループワークのデメリットを補完し、看護学生のコミュケーションスキルを向上、コミュニケーション力の高い実践的な人材を育成する。さらに、疑似対面型グループワークが対面グループワーク、現行の遠隔グループワークを上回る教育効果について実証検証していく。

種 類 メリット デメリット
対面グループワーク 隣に人がいる感覚、臨場感や共感が得やすい 等 コロナ禍により対面できない
現行の遠隔グループワーク コロナ禍でも実施可能 目線が合わない、一体感の不足、学習モチベーションの低下 等